十五時三十二分の日の出

 

 

どんよりと冬の雲が垂れ込めていた空の端から、三筋ほどの光が放射線状に地上に注ぎ始め、雲の切れ目がはっきりと見えて黄金色に輝きだす。

海津大崎は琵琶湖の最北端にある。

琵琶湖の辺りでは一番遅く咲く桜の名所として知られている。湖を巡る道の両側に桜の並木が続く、反対側はすぐに山の斜面で道幅は狭い。今は一月二十日大寒、もちろん、まだ桜の蕾は色づいていない。

それでも今年は雪も少なく名残の雪の塊が道の端や道中に広がる黒い田畑の上に残っているだけである。

車が入り組んだ道の先、すれ違うのがやっとのいくつかのトンネルをくぐりぬける。

「短いけど自転車も人もここを通るしかないから結構怖い、夜は全然灯りがないからもっとこわい!」といつも一緒のキッシーこと岸本初美は昔、琵琶湖一周した時のことを思い出しながら言う。「今じゃーもう無理!」

トンネルを抜けると、途端に道を横切る数匹のサルが見えた。「あっ!サル」ブレーキをかけて路の端に車を寄せて止まると、右の一段低くなった渚をはさんで積まれた石垣を乗り越え、道を横切って行く。結構居る。小さな子ザルを急かす親ザル、親ザルのお腹にしがみつく子ザル、大きな体の多分オスザル。反対側の山の斜面をゆっくり登って行くと見えなくなった。

ちょうどそのときである、さっきまで一旦は隠れていた太陽のまあるい影が、薄くなった雲から見え始めた。車を降りて湖面の遥か上、幾重にも重なる雲に向かって立った。ほとんど風はない。

そして私は多分二度とないだろう奇跡のような光景を見、体験したのである。

緩やかな白い雲の峰が続く、その峰の一つから光がこちらにまっすぐ向かってくる。穏やかな冬の湖をまっすぐに、

目の前に道が出来るように湖を金色に染めながら近づいてくる。それはあっという間の出来事のようでもあり永遠の時の中だった気もする。その光が間違いもなく私に向かって一直線に(いや、扇状に広がりながら)私に向かって湖面を渡ってきた。

瞬間、そのひかりが私を包みこんだとき、私はきらきらと輝いて見えた筈である。ステージに立つ役者のように、歌い手のように、その明かりはまっすぐに私だけを照らし、包みこんだのである。目の前の観客はまばゆい光でまったく見えなかった。

私は光の中にいた。

そのまま立ちつくすことを止めた時、道の真ん中で一匹のサルがふり返りながらお尻を掻くのが見えた。

「あっ!もしかしたらサルたちもここに居たかったのかもしれない!」と思った。

「悪いことしたなー」とつぶやいたらキッシーが「そうかもね!」と言った。

春はもうすぐそこかもしれない!広がり始めた光に淡く碧い空が広がりはじめていた。

時刻は十五時三十二分。

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ながの ひろゆき

P.S         残念だったかどうか?この時いつも持っている筈のカメラは持っていませんでした。ですから、上の写真はその時のものではありません。